最近読んだ本

心臓を貫かれて 上・下 マイケル・ギルモア 2019/05/06
村上春樹訳でなんとなく面白そうだったから買った。ノンフィクション。
・この本はモルモン教の成立から始まるし、随所に宗教の話が出てくる。ほとんどの人が何かの宗教に属していて、自分の宗教を自分で決めるという行動が親からの独立の一つの形のようだった。主人公の一番上の兄はエホバの証人に感銘を受けて入信している。エホバの証人って日本だったらうわ~近づかんとこってなるとこだけど。うまく説明できないけど、宗教に対する考え方が根本的に日本とは違うんだろうなあ。アメリカはそもそも成立の過程が宗教的なのも一つの要因かもしれない。私には神や聖書を信じるという感覚がよくわからないし、想像も難しい。概念としての神様はなんとなくわかるんだけど、その絶対性みたいなものがうまくつかめない。かといって無神論者ですって堂々といえる感じではないし…神を信じる人間と信じない人間では、どっちが幸せなんだろうか?ギルモア家にとって、宗教は救済(教会はセーフティネットの役割を果たす)であると同時に、家族に災厄をもたらす原因の一つであった。
・ゲイリーはとんでもなく危険な男だけどどこか魅力を感じさせられる。まわりのひとにとっては地獄だろうけど。
・どう考えても絶望的な家族なのに、愛情が垣間見えるのが生々しい感じ。子供たちは家庭に反発しながらもその家庭から抜け出せない。関係ないけど、アメリカ(というか多くの外国)の人がする、愛情を示すようなボディタッチにすこし憧れる。
・こういう話を読むと、いかに親のそれまでの人生が子供に与える影響が大きいかを実感させられる。私はもともと反出生主義的な考えを持っているけれど、いっそうこの世界に子供を産み落とすことの残酷さを思わずにはいられない。まあ極端な例ではあるけど…多かれ少なかれどこの家庭にもある種の残酷さがある。
BANANA FISHでアッシュが言ってた、アメリカ巨大な田舎なんだ(うろ覚え)っていうセリフをふと思い出した。アメリカにはなんというかとても陰鬱で暴力的な部分がある。
・筆者がローリングストーンズの記者ということもあり、自分の暗い部分とどうにか折り合いをつけようともがく若者にとって、ロックが人生における一つのシンボル(たとえば、荒廃した家庭から逃げて自立することの)であったということを感じさせられた。彼らの壮絶な環境とは比べものにならないけれど、私にとってもそうだったし、これからもそうであるだろう。
THE NOVEMBERS "Gilmore guilts more"(ただし、モチーフはドラえもんの映画にでてくるキャラクターらしい)
 
 
アマニタ・パンセリナ 中島らも 2019/05/08
・”僕は馬鹿だが、かつて一瞬でも悲惨であったことはない。(略)これは「因」だ。「果」としていまのこの少しつらい自分がある。しかしこの自分もまた「因」だ。次の「果」がくる。そうして、因縁にからめとられ、少しずつ姿かたちを変えながら、我々は時間の河を渡っていくのだ。死に向かってではない。生に向かってだ。”
・もし動物を飼うなららもってつけたい。かわいい。
・文章が本当に好き。
・死ぬまでに一度はドラッグやってみたい。
・エッセイとしてだけではなく、ドラッグの知識が豊富で面白かった。アッパー系とダウナー系があるの初めて知った。あと、日本軍は兵士にシャブを与えて特攻させていたのだそうだ。(戦争でドラッグを使う国は日本以外にも多い。)確かにいくら愛国心があろうが普通の精神じゃあんなことできないよなぁ。ドラッグという観点から歴史を見るのも面白そう。
 
 
死者の奢り・飼育 大江健三郎 2019/05/15
・どの話もどよーんと暗くて、一貫して戦争や性というテーマが見られる。
・雰囲気めちゃ好きだし、非常に練られた文章だと思うんだけど、文体が読みにくいし、背景がわからないものが多くて読んでいて疲れた。~してい、とか、~して来、はさすがに古文かよって思った
「死者の奢り」
・部屋の壁全体に広がる巨大な水槽に、褐色の死体が互いに体を押しつけ合って浮かんでいるという情景を想像すると、中世ヨーロッパの裸の男女が大勢描かれている宗教画がふと浮かんだ。
・実際こういうアルバイトってあるのかな?ネットでちらっと調べてみると東大には無かったみたいですね。それにしては表現が克明ですごい。
・子供を身ごもっているのにその新たな命を憎み、死体処理のアルバイトをしている女子学生がとても印象的だった。”私は自分が生きて行くことに、こんなに曖昧な気持なのに、新しくその上に別の曖昧さを生み出すことになる。人殺しと同じくらいに重大なことだわ。”
実存主義との関連を強く指摘される小説だが、今の私にはあんまり理解できなかった。「実存が本質に先立つ」ように、目的を持たない死体は無機質な<物>であり、目的意識をはっきり持たない主人公は閉塞感、徒労感に苦しんでいるということなのかな。ちゃんと哲学を勉強してから読み直したい。
「飼育」
・黒人兵の描写が差別的すぎて笑ってしまった。今こんなの書いたら炎上どころじゃすまないでしょう。ただ、外のことを何も知らない無垢な少年には、初めて会った異人種ってそれほどまでに異質で、同じ人間だとは思えなかったんだなあ。人種差別の根本には純粋な畏怖や衝撃があって、それは人間の自然な感情であると認めざるを得ない部分もある。そういうフェイスを通り過ぎた私たちにはもう許されないことだが。
「人間の羊」
・一番衝撃的な話だった。GHQ占領下の日本が舞台。アメリカの占領下って地獄の軍国主義から抜け出し、民主化を進めることができたっていうイメージがなんとなくあったんだけど(このイメージはどこから来たんだろう?または、誰がどういう意図で作り出したんだろう?)、日本はたしかに敗戦国で、戦勝国に従属しなければいけない立場であったということを切に感じた。もちろんこの話はフィクションではないだろうが、似たような状況は多かっただろう。こういう話ってどうしても個々人の政治思想(いわゆる右か左か)に密接に関わってくるので、なかなか本当のところを知るのが難しい。できるだけ中立の立場にいたいけど、その判断が今の私には難しくて、政治思想すべてが疎ましく思えてしまう。でもそこで投げ出しちゃったら民主主義は失われてしまうから、考えるのをやめてはいけないんだろうね。
・正義を謳った傍観者がその実被害者を攻撃している構図って現代にもいっぱいあるよね。最後の最後、米兵を非難するって言う目的が、被害者である僕を潰すことにすり替わってしまってるのがえぐかった。
 
・たぶん戦争は残酷で悲惨なだけのものではない。戦争は、村から一生でることのないような人間に、それがなければ起こりえなかった外国人との出会いをもたらしたし、病気で歩けない子供には、健常者ができることが彼らにはできないということを改めて痛感させた。それらがいいことか悪いことかではなくて、戦争を経験しなかった私たちには想像すらできないような形での戦争と人間の関わりがあったんだと知ることができたのは良かった。
 
 
大江健三郎の後に読んだのもあってめちゃめちゃ読みやすかった。
・まぁまぁおもしろかったけど、よくある話だなって感じ。VRを題材にした作品が1989年に刊行されたっていうことの方に価値があると思う。
・昔は推理小説ばっかり読んでたけど、今は内容の薄さが気になってしまう…どうしても純粋な文学に劣ってしまうところはあると思う。面白いかどうかは別だけど